彼が愛したケーキ職人

cakemaker.espace-sarou.com

イスラエルの映画、見たことありますか?ほとんどの方が、無いのではないでしょうか。もちろん私も初めてです。イスラエルの文化についてあまりにも無知だったと実感しています。何しろ世界史の授業で少し触れる、宗教的に戦争の多い国、ぐらいの知識しか無かったのですから。

 

毎週金曜日の日没とともに「安息日」は始まります。土曜日の日没までの間、全ての労働は制限され、ろうそくを灯し、家族で食卓を囲み、祈りを捧げ、「語らわなければならない」日。あたたかな家族がある人間にとってはそれは大切な時間であり、そのための準備(日没までにごちそうを用意するなど)は毎週ちょっと大変で、そして家族のない人間、特に愛する人を失ったばかりの人たちには、窓から見える他の家族のあたたかな景色は切なく映ります。

 

そしてユダヤ教には「コシェル」という食事規定があり、飲食店はこの規定に則っていることを認可されて営業が成り立ちます。「ユダヤ教以外の人間はオーブンを使ってはならない」なんて規定があり、ヴェルリンから来たケーキ職人はオーブンを触らないようにクッキーやケーキを焼かねばなりません。それでも「ドイツ人を雇っているなんて知られたら客が来なくなるぞ」というセリフや、映画の途中では認可を実際に取り消されるなど、イスラエルという国がどれほど宗教を大切にしているかがよくわかりました。

しかし主人公はそれをやや疎ましく感じていて、宗教よりもここにいる人間こそが大切なのだという描かれ方をしています。

 

ややこしいことを書いてしまいましたが、映画はそういった宗教的な日常をさらりと取り込んだ、ほの切ないラブストーリーです。

突然事故で亡くなった夫には出張先のヴェルリンに恋人がいて、その恋人はヴェルリンのケーキ職人の男(!)で、彼は喪失感から恋人を探すためにエルサレムへ来たのです。そして主人公の開くカフェで働くことになり、彼の焼くクッキーやケーキは評判になっていきます。

しかしそのクッキーは、いつも夫が出張で買ってきたクッキーと同じ味がする…と主人公は徐々に気づいていくけれど、そのクッキーを焼く彼へ惹かれてゆく恋心も止められない。。誰も幸せになれない見事な三角関係です。ドイツとイスラエルという宗教色を前面に出すわけではないけれど、宗教が日常に絡んでなおややこしいことになってゆく。その描き方がとても丁寧で、嫌味のないバランス感覚が素晴らしい。

 

国籍や宗教や性別という、人間の生み出す障害に心を揺さぶられる映画でした。

 

イスラエルの映画をもっと見てみたいと思っています。探してみよう。